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プロフィール

ロキ2017

Author:ロキ2017
ひっそりとこっそりと作りました。
乙女椿の花言葉は「控えめな愛」「控えめな美」。
そんなお話をつづっていければと思っています。
よろしくお願いします。

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cup はなふさのくにのものがたり 12

2018.12.11 Tue

ふと眠りから覚めた司は、酒のせいで乾いたのどを潤すべく、つくしを呼ぼうとして、いないことを思い出し、ため息をついた。すでにお側衆は帰ったのか誰もいない。仕方なく誰かを呼ぼうと部屋の外に出た。かすかに聞こえる話し声の方に行くと、それはあきらたちの声、そしてタマとフク。そして話の内容は…。

!!!

のどの渇きも忘れ、司は身を翻して庭から厩へ行き愛馬に鞍を置いて飛び出した。
暗闇の中、馬を駆けさせるのは無謀である。駆け寄ってきた門番から松明を奪い取り、司は山の別邸へ向けてひたすら馬を走らせた。

つくし、つくしが俺の事を想うあまり病気になった。
滋の事を気に病んでいた。
俺は、俺は、そんなことも気が付かなかった。
つくし、俺もお前を想っている。お前が愛しい。お前を傍に置いていたい。
つくし、つくし。

心の中でつくしを呼びつつ、司は山を目指した。

**

つくしは、心細かった。
最近食が細り、自分でも体力がなくなっているのが判っていたけど、まさか倒れるとは思ってもいなかったのだ。しばらく休んだら大丈夫だろうと思ったのに、いきなりタマ様に山の別邸へ行くように言われて、車に乗せられ連れてこられてしまった。
道明寺のお邸とは違い知っている人もいない別邸。ここで静養せよと言われても、ただの侍女が来るところとは思えない。休むのであれば宿下がりをするのに…。
訳が分からず不安で、褥の中、つくしはしくしくと泣いていた。

何かざわめきが起こったのが目が覚めた。泣き寝入りをしていたらしい。何か声が聞こえる。あれは…!

目の前に司がいた。
思わず起き上がって、呆然と司を見つめた。
「司様…。」と呼ぶと、次の瞬間抱きしめられた。
ああ、司様だ、司様が来てくださった…。
胸に縋りついて、衣をギュッとつかんだ。

「つくし…。」と呼ばれて、顔をあげると、泣いた痕に気付いたのか、頬を指で拭ってくれる。その手に頬をゆだね、つくしは目を閉じた。また涙がこぼれたが、これは安堵の涙だった。再び抱き寄せて髪を撫でながら、司は安らぎを感じていた。腕の中にすっぽり収まる小さな体。暖かい。柔らかい。愛しくてたまらない。

「つくし、俺はお前が好きだ。」

弾かれたように、目をあげて司の顔を見上げるつくし。驚きのあまり目が零れ落ちそうになっている。

「お前なあ、その顔…。」
クククと笑いながら、また抱き寄せたが、つくしの体は硬直している。

「つくし。お前は俺の傍を離れるな。…邸に戻ろう。」

「でも…。」
自分だって司様の傍に戻りたい。でも、滋姫様と一緒にいる司様を見るのは辛い。
辛い…なんで辛いんだろう。滋姫様は良い方なのに。
つくしは、司の腕の中で、自分の気持ちを探っていた。そしてやっとわかった。

あたしは司様をお慕いしてるんだ…。

だからお二人が一緒にいるのを見るのが嫌だったんだ。やきもちを焼いていたんだ。邸に戻って今まで通りにお仕えしたい。でも、でも…。

司はそんなつくしをじっと見ていたが、じれてきた。

「つくし。」と呼ぶと、額に口づけた。びっくりして顔をあげたのに、今度は唇に口づけた。真っ赤になったつくしは腕から逃れようともがくが、がっちり捕まえられていて、逃げられない。いくつもの口づけを落としながら、司はゆっくりとつくしの身を横たえ、上から顔を覗き込んだ。

「つくし、お前は俺のものだ。」
ゆっくりと深い口づけをしながら、司はつくしの形をなぞり、初めての感覚に二人は本能の導くまま溺れていった。

疲れて寝入ってしまったつくしの髪を撫でながら、司は驚嘆していた。女とはこういうものだったのかと。今まで、あきらや総二郎が女と遊ぶのが、理解できなかった。媚びるようにしなをつくる女たちのどこがいいのかと思っていたから。体を押し付けられ、しなだれかかれても、鳥肌が立つだけで、気持ち悪くて仕方がなかった。でも、つくしだと、その体の隅々まで余すところなく口づけたいと思う。つくしがおずおずと背中に回した手が、どれだけ嬉しかったか。つくしになら、触って欲しい、と思う。

部屋の外で、カタンという音がした。司はもう一度つくしに口づけてから、褥を滑り出て、部屋から出ると、そこにはタマと総二郎がいた。

「司様…。」
タマは何とも言えない目で司を見ている。
「司。ここは警備が手薄だ。邸へ戻らないと。」と総二郎。

二人とも司の様子で、つくしとの間に何があったかを察したようだ。結局、楓やタマたちが誤解していたのが本当になり、つくしは滋との縁談の妨げになるだろう。

「ああわかっている。…つくしを連れて帰る。タマ、つくしの準備をしてやってくれ。」
ため息をつきながら、タマはつくしを起こしに行った。

「あきらと類が、滋姫の相手をしている。右近はもっさりしているが、ああ見えても頭は切れる奴だ。ある程度の事は察しているだろう。」
「総二郎、滋はいいやつなんだが。…俺はつくししかいらない。つくしだけでいい。」
仕方ないな、と総二郎は司の肩を叩いた。

「司様、つくしは体調を崩してるって、忘れてらっしゃったでしょう?」とタマが苦笑いしながら言うので、司は慌てた。まったく忘れていたのだ。おずおずと姿を現したつくしは、ふらりとよろめき、座り込んでしまった。

「つくし!」
駆け寄った司はつくしを抱え上げ、そのまま部屋に戻った。褥はタマの手によって片付けられていたので、そのまま座り込み、腕の中のつくしを覗き込んだ。真っ赤になったつくしは、手から逃れようとするが、司が離さない。

「つくし、お前大丈夫か?」と総二郎がいうのに返事したのは、つくしのお腹。ぐうううという音がして、つくしは余計に赤くなった。

「何、つくしちゃん、お腹空いたの?」
「す、すみません!」

タマが朝餉を手配し、つくしは司や総二郎に給仕しようとして、止められた。倒れたのに、働かなくていい、と。自分はお二人のあとで、といったが、司は取り合わず、つくしも一緒に食事をとった。つくしはこのところずっと食べられなかったが、久しぶりに食べ物がおいしく感じ、食べたことで気力が湧いてくるのを感じていた。

司はつくしを自分の前に乗せ、タマは護衛の馬の後ろに乗せてもらい、総二郎と三騎、邸に駆け戻った。出迎えたあきらと類は、複雑な表情で二人を見て、滋姫が国へ帰ったことを告げた。「司が気に入ったので、正式な使者をたてて、縁談を進めたい。」と楓に言い残して、去った滋。これで大河原との話は進むことになってしまった。

司はお側衆やタマとともに、楓奥方のもとに向かい、つくしが身ごもってないこと。だが、司の手がついたこと、そして、滋との縁談は受けるつもりがないことなどを言ったが、到底受け入れられるはずはなく。

「お家のためです。」の一言で、大河原家との縁談は決まり事になってしまった。

「くそっ、ババア、俺は…!」
「つくしの身に何かあっても良いのですか?」
「…!俺を脅すのか?」
「そうではありません。つくしは何の後ろ盾もない身。大河原家との縁談の邪魔になるとわかれば、家中すべてから白い目で見られることになるでしょう。あなたはつくしを守れるのですか?」
「くっ…。」

司が初めて気持ちを動かした女子。できることなら、そのまま添わせてやりたいが、西が不穏な動きをしている今、大河原との縁談は北の守りを手に入れるためにも必要不可欠。楓が守らねばならないのは、この道明寺の家と領民。そしてそれは司も同じ。

「つくしは俺の手元に置く!」と言い捨てて、司は東の対屋へ戻っていった。

ため息とともに額を押さえた楓は、
「殿に戻っていただかなくては…。」と独り言ちた。

そのころ、道明寺家当主、柾(まさき)は領地へ向かおうとしていた。


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cup はなふさのくにのものがたり 11

2018.12.09 Sun

司は、つくしがだんだん元気を無くしていくのを、どうしたものかと悩んでいた。あれだけこの東の対屋を明るくにぎやかにしていてくれたのに。気が付けば、遠慮がちにすぐに奥に引っ込んでしまう。その分、にぎやかな滋がいるので、常と変わらないようにも思えるが、五目並べに誘ってみても、一瞬目を輝かせるが、はっとしたように、首を横に振って退いてしまう。

朝は変わらず起こしにきたが、給仕するその手の細さにはっとしてしまった。気づけば肩も薄くなり、やつれたように見える。つくしは何か病気なのかもしれない、と初めてその可能性に気が付いた。

つくしが病気だったら。もしつくしがいなくなってしまったら。
今まで怖いと思ったことがない。勇猛と恐れられる司は、初めて恐怖というものを知った。

司はタマのもとに出向き、つくしに薬師を呼ぶように言いつけ、あきらにもつくしの様子がおかしいことを相談した。今まで人を人とも思わぬような傲岸不遜な司がそんなことをするなんて、それこそ天変地異の前触れだろうか、と思いつつも、あきらもつくしの様子がおかしいのに気が付いていた。もちろん、類も総二郎もつくしが笑顔を無くしているのはわかっていたが、たまたま領内でもめ事が起き、その対処で走り回っていたので、後回しにしてしまったのだ。

そして、ある日つくしは倒れた。すぐにタマの命によりつくしは山の別邸に連れていかれ、司が帰ったときには東の対屋は誰もいなかった。大声で呼んでも出てこないのに気づくと、部屋を探し回り、その騒ぎを聞きつけたタマからつくしが倒れたこと、そしてしばらく山の別邸で静養させることを聞かされ、すぐに別邸に向かおうとして、止められた。

「倒れたのに、司様が行かれたらまた仕事をしようとして無理をしますよ。」
踏みとどまった司は唇をかみしめ、いつもと違う東の対屋の自分の部屋にドカッと座った。酒を運ばせて浴びるように飲みつつ、心の中でずっとつくしを呼んでいた。
つくし、つくしは大丈夫なんだろうか。病気は重いのだろうか。
…つくしに会いたい。つくしの声が聞きたい。
司はそのまま寝てしまった。

あきらたちは、タマの言動に不審なものを感じていた。いくら奥仕えだとはいえ、ただの侍女を山の別邸になぜ行かせたのだろうか、と。普通ならば病気になったときは、主に迷惑をかけないように、宿下がりをするのが普通である。それなのに、家には帰さず、わざわざ別邸へ運んでいる。

あきらはタマのもとに出向き、その疑問を直截に尋ねた。そして帰ってきた答えに仰天してしまった。

つくしが司の子を身ごもっている?そんな馬鹿な!

滋姫の縁談のためにも、しばらくつくしを山の別邸へ遠ざけるように、楓奥方が命じられたのだと。どうにも信じられないあきらは、総二郎と類も呼び、タマもフクを呼び寄せて、ひそかにお互いの情報を照らし合わせた。フクが明け方司の寝所から出てくるつくしを見た、というのを聞いて、三人は首をひねった。

「なあ、それってたぶん…。」
「だな。あの五目並べの時だろ。」
「そ。はまっちゃって、司に相手してもらってるうちに寝ちゃったって言ってたよね。」

「「はあ?」」
タマとフクの声が揃った。

かくかくしかじかと、あきらたちから話を聞いた二人は脱力して、頭を抱えてしまった。せっかく女嫌いの司が気に入った女を見つけて、それに子供までできた。身分的には問題だが、司様のお子が抱けると思っていたのに…。がっくりである。

「じゃあ、なんでつくしは倒れたんだい?」とのタマの疑問に、フクもコクコクとうなずいている。食欲がなく、だんだんやつれていくから、つわりだと思ったのに…とブツブツいっているが、確かに、おかしい。もしや本当に病気なのでは、と顔を見合わせている。

「…たぶん、滋姫のせいだよ。」と類。
「滋姫様が、つくしを邪険にしたとかでしょうか?」とフク。
「じゃなくて。」と総二郎。
「つくしは、司が滋姫と一緒にいるのを見るのが、つらそうだったから。」とあきら。

「「???」」
首をひねっているタマとフク。

「つくしは、司を想っている。でも司は滋姫と結婚してしまう。で悲しくなって食欲もなくなった、ということ。」

「「はあ??」」
あきらの説明を聞いて、ふたたび、タマとフクの呆れたような声が揃った。

ぷぷぷと笑いながら、類が言った。
「なんかねえ、二人見てたら面白かったよ。」
「だな。司もつくしのことを気に入って傍に置きたいって言ってるのに、つくしには言わないし。滋姫と行動を共にしているし。あれじゃ、つくしが悲しくなるのも無理ないな。」
「つくしも鈍感というか、なんで自分が悲しいのか自覚してないから、余計にやつれちゃって。」

「とどのつまり、司様とつくしはお互い想いあっていると。」とタマ。
「だな。」
「そういうこと。」
「ん。」

はあ~とため息のついたタマは、「奥方さまと相談せねば。」と言っているが、勘違いしてそれを報告したフクは、おろおろとしている。

「タマ、お前はつくしをどうすればよいと思うか?」とのあきらの問いに、
「はて、つくしをどうするというのでしょう?」
「司の気持ちをどうするかってこと。」と類。
「滋姫との縁談を進めるか?司はせねばならぬこととわかっていても、その気はないぞ。」

「はああ~~~。」
全員がため息をついた。

ぽつりと類が言葉を漏らした。
「司が動いたみたいだよ。」
蹄の音が遠ざかっていくのを皆の耳はとらえていた。


cup はなふさのくにのものがたり 10

2018.12.07 Fri
司は滋と一緒に町へ出ることになったが、険悪な視線を滋に向けたまま、一言も口を利かない。それに対して滋はあれこれ珍しいのか、山のように質問をし、勝手に話を進めていく。

「ねえねえ司、あれって何?どうやって食べるの?おいしいの?いくらするの?」
「あそこにあるのは、何?薬?へー、何に効くの?」

普段とは違ってまともな衣服に身を包んだ総二郎やあきらが、多少ひきつりつつも、如才なく答え、その後ろに右近と類が付き従って市をまわった。
好奇心で目をキラキラさせた滋は、見るもの聞くものが面白く楽しいようで、司が不機嫌なのも気にせず、存分に街歩きを堪能したのだった。

結局一言も口を利かなかった司だが、館に帰り着いて去り際に滋に詰るように言った。
「お前、つくしをどうするつもりだ。」
「え?一緒に遊ぼうと思って。」
「ああ?つくしはおれの侍女だ、勝手にするな!」と言い捨て、去っていった。
「ええー、ちょっとぐらい貸してくれてもいいのにー。」とぶうぶう言う滋を、あきらや右近がなだめ、類と総二郎は司を追った。

東の対屋に戻るといつものように、つくしが出迎えた。それだけで、司の気は静まっていった。くるくると立ち働くつくしを見つめつつ、酒を飲んでいると、不意に類がつくしに聞いた。

「ねえ、つくしは滋姫と会った?」
思わず全員の眼がつくしに向いた。
「は、はい、今日こちらへ司様を探しにいらっしゃったときにお会いしました。」

「ここへ来たんだ?」
「はい、的場にいらっしゃるとお答えしたら、そちらへ連れて行くように言われましたが…。」
「そうしなかったんだね。」
「はい…どなたか存じませんでしたので、案内していいかわからなかったんです。」
「そっか。」
「そうしたら、フク様が来られて、右近殿をお呼びするようにと言いつかって、西の対屋に行く途中でタマ様にお会いしたので…。あたしは北の対屋に行くように言われ、タマ様が代わりに右近殿の所に行かれました。あ・・・。」
「ん?どうかした?」
「あのう、あたしは西の対屋で滋姫様のお世話をすることになるのでしょうか?」

ガチャンと盃を置いた司が激昂した様子で言った。
「お前は俺の侍女だ!どこにも行かさない!」

びくっと身を縮めて、つくしは謝った。
「す、すみません、滋姫様がそんなことをおっしゃったので、そうなるのかと思って。」

そこへあきらがやってきた。
「司、そんな風に怒鳴るなよ。つくしがびっくりするだろ。」といいつつ、ため息をついている。

総二郎が、お疲れ、と言いながら、盃を渡して酒を注ぐと、一気に飲み干したあきらは、苦笑しながら話し始めた。
「つくし、なんだかお前は滋姫に気に入られたみたいだぞ?前に会ったことがあるんだって?」
「は、はい、宿下がりから戻る際に、町でぶつかったんです。でも滋姫様とは存じませんでした。」
男の方だと思ってましたので…とつぶやくように言ったのを聞いて、司以外が笑い出した。

「確かに、ありゃあ女とは思えないよな。」
「でも、美人だぜ。」
「それなりの格好をしたら、見られるだろうな。」
「だな。でも、かなりのじゃじゃ馬だ。」
「…じゃ、つくしのことを司から遠ざけたい、というわけじゃないんだね。」

類の言葉にあきらは、ああ、そういうわけじゃなさそうだ、と答えた。
つくしは、何のことやらわからない。首をかしげて眉間にしわを寄せている。

「あの、それはどういう…。」
「お前は、俺の侍女だ。ここにいろ。」と司が言う。
三人はその言葉に頷き、
「つくし、お前は司の侍女だ。それがお前の役目だ。」と口々に言う。

「はい…。」
なんだかわからないが、つくしは東の対屋にそのまま勤めればいいのだな、と解釈することにしたのだった。

**

それから、滋は毎日司のもとを訪れてきた。外への見回りにもついてくるし、的場や剣術の稽古の時にも姿を現した。さすがに政務の時はこなかったが、その時はつくしを相手にしておしゃべりしているらしい。女らしくはないが、さっぱりとした性格で天真爛漫な滋は、たとえ司がどんなに不機嫌でも気にせず、傍にいることができた。それはそれで、すごいことであると、館のものたちから一目置かれる存在になっていった。司に憧れていた女たちは、滋の事を陰で山猿と呼び蔑んだが、身分も容姿も非の打ち所がないのは確かで、歯噛みして悔しがるしかなかった。

司は最初はうっとおしく思ったものの、他の女のように媚を売ることもない滋は、どんなに邪険に扱ってもめげることなく、傍に寄ってくる。根負けしてしまい、一緒にいることに慣れていった。見合いではないということであったが、滋姫は司を気に入ったようだし、縁談は無事に調いそうだと、大方のものは見ていた。

そうすると、問題になるのはつくしである。タマやフク、西田はつくしには司の手がついているとみている。実際はそうではないのだが、このままでは縁談の障りになってしまう。つくしを司から離そうという動きが出ていた。

つくしはつくしで、かなり強引だが悪気がない滋に振り回されつつも、日々を過ごしていたが、胸に何かが閊えているような、心地悪さを感じるようになっていた。今まで司様と三人衆だけだった小さな世界に入ってきた滋。変わっているがきれいな姫君で、いずれは司様の奥方となられる。自分にも優しく接してくださる。でも、二人が一緒にいるところを見ると、胸が苦しくなった。

お二人が婚姻されたら。その時、自分はどうなるのだろう。そのままお二人に仕えるのだろうか。今まで、自分だけに向けられていた司様の笑顔は、滋姫のものになる。なんだか嫌だ。なんでこんなに、胸がモヤモヤするんだろう。

つくしは、自分の気持ちに気づいていなかった。が、心に愁いがあるので、ものが食べられなくなってきていた。つくしはみるみる痩せていった。

慌てたのは、タマたちである。これは、つくしが司の子を身ごもったせいだと誤解したのだ。司のお子であるならば、それは庶出でも跡継ぎ候補だ。縁談が調うまではしばらくつくしを館から退けた方がいいのではないか。楓の指令のもと、つくしは山の別邸にしばらく行かされることが決まった。


cup はなふさのくにのものがたり 9

2018.12.05 Wed

いつものように昼下がりに貸し与えられた書物で勉強をしていると、庭先から声をかけるものがいた。

「こちらが東の対屋よね。若殿はおいでになる?」
若々しい声に驚いて庭を見ると、そこには若い男がいた。男?でもこの声は…?

「あの、どちらさまでしょうか。」
と問うつくしの声にかぶせるように、その若者は叫んだ。

「あーっ、前に市のところで会った子だ!」

「はい?市のところで…?あ!」

前に宿下がりをしたときに声を掛けてきた若者だった。

「なんだ、ここに奉公してたんだ、ねえ、名前はなんていうの?」

「は、はい、つくしと申します。あの、若殿はただいま的場の方においでですが、どちらさまでしょうか…。」

「的場、そっか弓の練習してるんだ。どこにあるの?連れていってくれる?」

「…。」
知らない者を連れていくことはできない。でもお客人ならばご無礼があってはならないし、どうしたらよいのかわからなくて、つくしは固まってしまっていた。

「ねえ、何してるの?あ、もしかして何か勉強中? じゃ仕方ないね、誰かほかの人いる?」

…どうやらこの人は全然人の言う事を聞かない人のようだけど。一体誰なんだろう?あ、もしかして大河原のお付きの方なんだろうか?

「あ、ごめん、名乗ってなかったね、私は…。」

「滋姫様!」
慌てふためいた声が聞こえ、フクが現れた。
「こちらにおいででしたか、右近殿がお探しでしたよ。」
「げっ、見つかったら怒られる。」

滋姫様?この人が…!
すらりとした上背だが、きりっとした眉に涼し気な瞳、そしてその赤い唇はやっぱり女性のもの。おきれいな方…。でも、どうして男装していらっしゃるのだろう?

「ねえ、フク。この子気に入ったから、世話係はつくしに変えてくれない?」
「へ?あたし?」
「滋姫様、それは奥方様と司様にお聞きしないと、なんともお答えできません!これ、つくし、西の対屋へ行って、右近殿に滋姫様がここにいらっしゃることをお伝えしておくれ!」
「は、はい!」

つくしは、頭を深々と下げた後、急いで渡殿を渡って西の対屋へ向かおうとするところで、タマと出会い、滋姫様が東の対屋へおいでになったことを告げた。タマはすぐに別の侍女を西の対屋へ差し向け、つくしは北の対屋の手伝いに行くように言った。

フクもタマも、滋姫がつくしが若殿の傍にいることを良しとせず、なんらかの危害を加えに来たのではと危惧したのだ。それは、つくしにはすでに司の手が付いているという前提での話なのだが、つくしにはそんなことはわからない。とにかく、滋姫の世話係になるかもしれないのかな、とだけ、心に置いた。

正式な見合いというわけでもないし、日々の鍛錬や仕事もあるので、司は滋姫が来てもまだ会ってはいなかった。一度挨拶ぐらいはせねばならないのはわかっていたが、女嫌いの司にとっては、面倒この上ない話だったのだ。そこへ、的場に楓からすぐに北の対屋に来るようにとの使いが来た。いよいよか、といったん東の対屋へ戻って衣服を整えることもせず、そのままドカドカと足音も荒く、楓のもとへ行った。

そして、そこにいたのは、司の想像とはまったく違った女だった。なよなよとした媚を売るような目つきの女がいると思いきや、若い男が一人。しかし、よく見れば男装をした女とも思えない女。一瞬めんくらった司は「誰だ、お前」と思わず声を掛けていた。

軽く咳払いした家令の西田が、「滋姫様でいらっしゃいます」と言うのを聞いても、思わずまじまじと見て、「これが女か?」と、かなり失礼なことを言っている。
言われた本人はあまり意に介さない様子で、「こちらが若殿?大河原の滋です!」と明るく挨拶している。そばで、ため息をつきつつ、「右近でございます。初めて御意を得ます。」と恭しく挨拶をしてくる右近に、「お前がお付きか?どういうことだ、これは?」と聞いている。

右近は、
「えー、滋姫様は、とても活発でいらっしゃって、動きやすいからと好んで袴姿をすることが多いので…。」
と説明するのに、滋が言葉をかぶせて、
「ねえ、司、町に出てみたいんだけど、案内してくれない?市が立つんでしょう?」と言ってくる。

さすがの楓も破天荒な滋姫の言動に、顔に出さずとも驚き気味だが、
「司、滋姫を案内するように。」
と命じた。

「あ、それと、奥方様、さっき東の対屋にいたつくしが気に入ったから、世話係にしてもらえませんか?」と滋。
「ああ!?なんだそれは!」
といきり立つ司。

フクとタマから連絡を受けていた楓は、「つくしはまだ入って間もないので。」と慇懃に断り、残念がる滋をなだめた。


cup はなふさのくにのものがたり 8

2018.12.03 Mon

翌日、輿に乗って滋姫が訪れてきた。産する丹によって、財政が豊かな大河原家の姫らしく、美々しい輿を素晴らしい馬にひかせている。降り立った姫君は、すらりとしていて、豪奢な着物を見にまとい、付き従う侍従たちや侍女たちも、皆さっぱりしたお仕着せを着ている。北の対屋に手伝いに駆り出されたつくしは、裏方で走り回っていたので、見ることはできなかった。

客人たちは西の対屋に入り、ひと月ほど滞在することになった。普段使われていない西の対屋は、きちんと掃除してあったとはいえ、調度類を入れねばならず、楓の命のもと、タマや西田の差配に従って、館に勤める者たちは、ほこりを払ったり組み立てたり、それを搬入したり、慌ただしく走り回っていた。

「もうちょっと早くにおっしゃってくだされば、準備に時間がかけられたのに…。」
「ほんと、こんなにいきなりってのはないわよねえ…。」
「これ、口は動かさず、手を動かしなさい!」

領主の館とはいえ、グチはどこも同じ。それでもなんとか準備は間に合い、無事に一行を迎えいれたのだった。

客人たちの世話は、フク以下数人がすることになり、連れてきた侍女やお付きのものにそれぞれ必要な場所を案内し、遺漏なく滞在できるように取り計らった。

大河原家の領地は山国であり、豊かだといっても、田舎である。対して、道明寺の領地は東西に走る街道と海に向けての港が整い、他の国への通商が盛んな土地柄である。二つの領地の住民の気質はかなり違っていた。

そして、フクはそれを思い知ることになった。

滋姫。警護として付き従ってきた大河原家重臣の息子右近とその部下5人。侍女は2人。荷運びが2人。

楓のもとであいさつした時は、美しい姫君だと思ったのに。翌朝、挨拶に訪れたフクの前に現れた滋のいでたちは、袴姿。長く垂らしていた髪の毛はまとめて房の付いた組み紐で結んであり、凛々しい男装で現れたのだった。

「フク、町が見たい。案内してくれないか」
「は、はい、お出かけ…でございますか。しばらくお待ちくださいませ、誰か用意させますので…。」
「ああ、面倒だったらいい、自分たちで行ってみる。」
「いえ、そんなことはございません、しばらく!しばらくお待ちを!」

即断即決で行動が早く、突っ走ろうとする滋姫に対し、お付きの右近は冷静に突っ込みを入れて、いったん押しとどめ、具体的な行動を決める。その呼吸はさすがに慣れたもので、フクは右近を通じて、いろんなことを相談すべきだと心に留めた。

滋姫たちが出かけた後、館にとどまった侍女の一人、乳母のイトにフクはおずおずと尋ねてみた。

「あの、姫様はいつもあのように男装をしていらっしゃるのでしょうか…。」
「いえ、そんなことはございません!」と慌てたように答えたものの、ため息をつきつつ、「姫様はとても活発でいらっしゃって…。」
と言葉を濁している。

どうやら滋姫はおとなしいとはいいがたい性格のようだった。フクはタマや西田、そして楓に滋姫の人となりを伝え、これからも注意深く情報を集めることにした。あの苛烈な性格の司と活発な滋。相性が良ければ、攻撃的な夫婦が出来上がる。合わなければ、想像するのも恐ろしい。フクは身震いしてため息をついた。

**

つくしは北の対屋に友達ができていた。同じような足軽出身の優紀である。それまではタマ以外に話す相手とて無く、侍女たちはみな良い家柄の出身であり、司の侍女であることへの嫉妬なのか、つくしと親しく話すものは誰もいなかった。滋姫を迎える準備で一緒に働くうちに、優しく親切に接してくれた優紀と親しくなったのだ。同じ年ごろの友達と離れて寂しかったつくしは、同じような階級出身の優紀は頼りになる先輩であり、同僚だった。

「ねえ、つくし、滋姫様にお目にかかった?」
「ううん、まだ。」
「すっごくきれいな方だよ。で、ざっくばらんで、偉ぶらない姫様なの!」
「へえー、そうなんだ、一度お目にかかりたいなー。」
「あれ、でも司様とご婚姻されたら、つくしがお世話することになるんじゃない?」
「え…。そうだ、そうだね。司様と夫婦になられると…。」
「あ、そろそろいかなきゃ。また明日ね!」

優紀と別れ、北の対屋から東の対屋へ戻りながら、優紀の言ったことを考えていた。滋姫様は司様と結婚するかもしれない。そうすると、あたしはどうなるんだろう。そのまま東の対屋でご夫婦にお仕えすることになるんだろうか。…なんか胸がもやもやする。どうしたんだろ、なんか変なものでも食べたのかな?

「つくし?」
ひょい、と顔を覗き込まれて、びっくりしてのけぞった。類だった。
「どうしたの、眉間にしわ寄せて。」
「あ…類様、なんかちょっと胸がもやもやしてて。」
「ん?食べすぎ?」
「はい、なんか変なものでも食べたかなって。」

あきらはいろいろと気を配って、つくしの面倒を見てくれたが、類はその透き通った瞳でつくしの頭の中まで見通すようで、悩みごとを聞いてくれていた。どうしたらいいか判断のつかないことを一人でぐるぐる考えていたりすると、決まって顔を覗き込んで、何かあったかと尋ねてくれるのだった。

「何考えてたか話してみて。」
と言われて、優紀と話したことから、滋姫が輿入れしたら自分はどうなるのか、などと考えたことを素直に話したら。
類はくすくすと笑いだした。

「つくし、それって食べすぎじゃないよ。」
「えっ、そうなんですか?どうしてわかるんですか?」
「自分の将来が不安になったんでしょ。」
「え、不安になったら胸がもやもやするんですか?」
「それ、人に聞くの?」
「あ…。」

そうだ、自分がこの先どうなるのか不安だったから、もやもやしたんだ。

「で、不安になったのはなぜだかわかる?」
「え…。」
「なぜだかわからないと、もやもやは消えないよ?」

「わからない…。」
「司の横に、滋姫がいるのがいや?」
「…どうしてですか?」
「だって、もやもやしてたのは、それじゃない?」

司様の横に滋姫がいるのがいや?だって滋姫様とはお会いしたこともないのに?

「つくしにはまだわかんないかもね。」
確かに類の言う事はつくしには全く分からなかった。


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