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プロフィール

ロキ2017

Author:ロキ2017
ひっそりとこっそりと作りました。
乙女椿の花言葉は「控えめな愛」「控えめな美」。
そんなお話をつづっていければと思っています。
よろしくお願いします。

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cup はなふさのくにのものがたり 27

2019.06.15 Sat

つくしは、必死だった。男たちに見つかってはならない、でも、奥に行かないと薬草はない。治平にも頼んで、長から教わった薬草を探し求めた。やっと見つけて、せっせと採っていると、物陰から男たちが現れた。叫ぼうとして口をふさがれ、つくしは連れ去られてしまった。

司たちは館にいた男たちを引き連れ、山へ入っていったが、つくしが見つからない。名を呼びながら探していると、警護の一人が、司のもとに駆け寄ってきた。

「こんなものが落ちていました!」

それは、小さな袋だった。色とりどりの布で作られた袋。よく女たちがモノを持ち歩くのに使っているものだ。中を開けると、白と黒の碁石が出てきた。これは…!

「碁石だ。」
「…つくしのものか。」
「たぶん。」
立木に来るときに、忍ばせてきたのだろう。

「くそっ。」
つくしが敵の手に落ちてしまった…!

そのまま突進しようとする司を止めて、いったん、敵の出方をまつことをあきらは進言した。
「お前たちは、探せ!」

館に戻ると、類が難しい顔をして待っていた。
「つくしが捕まったの?」
「ああ…。」
「三郎太に話さないと。」

身を起こして、おかゆを桜子に養ってもらっていた三郎太は、だいぶ楽そうになっていて、司たちが入ると、きちんと座り、頭を下げようとした。折った足は投げ出していたが。

「世話になる。」という三郎太に、つくしの事を告げ、つくしを返すように男たちに言うように求めた。だが…。

「その男たちが、俺の手のものかどうか、わからないのだ。」

どういうことかわからず、怪訝な顔をするのに、西条家の事情を話し出した。

西条の国は、現当主、西条弾正のもとで、英の国を虎視眈々と狙っている。自分の国を守り維持するだけでは、生き残れない。それならば、すぐ隣にある豊かな国を併呑すればいい。そう思っているのだ。そして、長男の太郎丸はついでに北の大河原の国も手に入れたいと、画策しているという。だが、三郎太は違っていた。どちらも通商によって共存できるのではないか、と思っていたのだ。それに賛同する家中のものもいて、無駄な戦を避けることができるのでは、と期待されていた。

「実際のところ、川に落ちてしまったので、栄の国にはたどり着けなかったのですが…。」

「それは事故?」と類。
「あ?事故じゃないのか?」とあきら。
「…長男の手のものか。」と司。

年も近く、頭も切れる異母弟は、長男太郎丸にとっては、邪魔なライバルだろう。供に自分の息のかかったものを入れておき、人気のないところで川に突き落としたのだ。

「では、今、山にいるのは、お前を探しているのか?それともお前を消そうとしているのか?」

「…たぶん両方だと思います。」

つくしをさらった男たち。もし、太郎丸の手のものであれば、三郎太を渡せば、三郎太の命は無くなるだろう。三郎太の仲間であれば、つくしは返してもらえるかもしれない。

「こんなものが射ち込まれました!」
との声に、渡されたのは、矢につけられた文。

『女をかえしてほしければ、館にいる三郎太を引き渡せ』

「…どうやら、太郎丸の手のものみたいだね。」
と、文を見た類が言った。

真っ青になった桜子が、「つ、司様!つくしを助けてください!」と取りすがる。
額に血管が浮かび上がるほど怒っている司から、あきらが桜子の手をはずし、なだめるようにぽんぽんと叩いた。

「桜子、三郎太の世話を頼む。」
そう言って、3人は出ていった。

唇を噛みしめて、泣くのをこらえている桜子に、
「済まない…。巻き込んでしまって。」と三郎太は謝った。

桜子とてわかっている。三郎太が悪いわけではない。殺されそうになったのは三郎太なのだ。つくしはそれに巻き込まれただけ。でも、つくしが心配でいてもたってもいられなかった。

「…聞いていいか?」との声に、三郎太を見やると、
大河原との縁談とはなんだ?と聞いてくる。

桜子は一つ深呼吸し、祭りの日にあったことを、説明した。覆面をした男たちが大河原家の滋姫をさらおうとし、間違えて桜子を連れて行こうとしたこと。つくしが体当たりして、桜子を逃がそうとしたこと。助けが来たので、なんとか助かったこと。

「たぶん、兄者の手のものだ。」
そして、父上もそれに加担している…。つぶやくように言った三郎太。

そんな三郎太に桜子は煎じ薬を渡した。
「…つくしがさらわれた傍に薬草が落ちていたそうです。無駄にしたくありません。ちゃんと飲んで、きちんと良くなってください。」

つくしもそれを望んでいるはずですから。

三郎太は黙って薬を受け取り、飲み干した。


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cup はなふさのくにのものがたり 26

2019.06.13 Thu

桜子は、一人、男の看病を続けていた。重臣の姫として育ち、面倒を見るより見られるのが普通だったが、立木の館で働くのは存外に気持ちのいいものだった。自分が必要とされている。頼りにされている。ただただ無聊を囲い、顔や体の手入れ以外はすることのない毎日より、ずっと生き生きと毎日を過ごしていた。

目の前の男は、呼吸が楽になったのか、静かに寝ている。額を冷やす布を替えるついでに熱をみてみると、どうやら、だいぶ下がったようだ。
薬も飲ませねば、と器をとろうとすると、いきなり手をつかまれた。

はっとして男を見ると、目が開いていた。
「…お前は、誰だ…。」
「何を飲ませようとしていた…!」

一瞬おびえたが、桜子はその言い草に腹が立って、パンと手を振り払った。

「わたくしは桜子!これは煎じ薬です。あなたはずっと熱が高かったの!」
「ここに運ばれてから、ずっと看病していた恩人に、その態度はなんですか!」

さっさと飲め、と渡された薬を、男は疑い深そうに見た後飲み干し、動こうとしてうめき声をあげた。

「ここは…いったい俺は…。」
「あなたは、川を流されてきたの。足を折っていて、熱を出していたから、この館に運ばれて、ずっとつくしと私が看病していたのです。」

「この館…?ここはどこだ…?」

「ここは、立木の館。英の国。栄との国境だ。」

声を聞きつけて、あきらがやってきて、そう告げた。
「桜子。司と類を呼んで来い...」

きゅっと唇を引き結んだ桜子は、頷いて部屋を出ていき、廊下を足早に去っていった。

「立木…英の国…司? 司! 道明寺司か!」

「そうだ。俺は美作あきら。どうやら、俺たちの名前に聞き覚えがあるようだな。」

司と類がやってきて座し、男を見下ろした。目を開けた男は、男らしく整った顔立ちで、目には知性が宿っているのがわかる。どことなく品があるのは、やはり身分が高いのであろう。

「お前の名は?」
司の問いに、男はじっと司を見返した。

「英と栄の国境に、西条から人が何組も入っている。誰かを探しているようだ。それはお前か?」

「…この館の近くの山にも、見知らぬ男たちがやってきている。お前の仲間か?」

それらの問いには答えず、男は口を開いた。
「お前が道明寺司か。…そして、隣にいるのは花沢類、だな。美作あきら、あともう一人と花の四人組と呼ばれている、と聞いた。」

うわさにたがわず、美形ぞろいだな…と静かに笑っている。

ムッとした司は、「おい、答えろ!」と怒鳴った。

そこへ、パタパタと廊下を駆ける足音がして、桜子が慌てた様子で入ってきた。

「司様、つくしが…!」

「つくしがどうした!?」
「山へ…山へ行ったようなんです!」
「なんだと!」

熱さましの煎じ薬のための薬草が、残り少ないので、山へ採りに行ったらしい、とのこと。
なんで、怪しい男たちがいるこんな時に…!

「…その男が大事な人らしいので、早く良くなるためにはもっと薬草がいる、と言ってたと。」

「くそっ。」と立ち上がり、司とあきらは警護のものを呼びながら部屋を出ていった。
残ったのは、類と桜子である。

「つくし…?」
「…つくしは、ずっとあなたを寝ずに看病していました。熱が下がらないので、長にきいた薬草を山へ採りに行って、それが効いたから…!」

「つくし、とは?」
「館の侍女だ」

そうか…。とつぶやいた男は、桜子の方に腕を伸ばし、起こしてくれ、と言った。
ムッとしながらも、起き上がるのに手を貸した桜子に礼を言い、類に向かって名乗った。

「俺は、西条三郎太。…西条家のものだ。」

うん、と頷いた類は、それで?と問うた。

栄の国へ行って、大河原と直接、交易の交渉をしようと国境を歩く途中、川に落ち、気を失ったこと。一緒にいたのは、五人。たぶん、そのものたちが、俺を探しているはずだ、とのこと。

「あんたは、大河原との縁組を望んでいるの?」
「…縁組?」

怪訝そうな様子に、この男は、祭りの時に滋を連れ去ろうとした奴らとは組んでないだろうことがわかった。

荒い息をつき、ぐらっと体が傾いだ男を桜子が寝かせ、
「聞きたいことはいっぱいあるけど、まずはつくしだ。桜子、あとを頼むね。」

頷いた桜子は、三郎太を睨みつけていたが、ふっと息を吐いて、
「薬を飲んでください。」と言った。
「…つくしに何かあったら、容赦しないから!」
男は黙って薬を飲み、再び眠りの世界に入っていった。


cup はなふさのくにのものがたり 25

2019.06.11 Tue

立木の館の中は司たち一行がいるためいつもより人が多く、村から手伝いの男女が呼ばれて、その世話にあたっていた。長もやってきて、山に見知らぬ者たちがいることをきいて、どうするのか評定に加わった。

「見知らぬ男たちから、川に流されてきた怪我人を見なかったかと尋ねられた、と、子供たちが言っている。走って逃げたから答えてはいないようだが、何かを知っていると思われたようです…。」

「西条のものだろうな…。館にいる怪我人が、探している男だろう。あきら、西条家で、当てはまりそうなやつがいるか。」

「西条家の今の当主の子供は、男児が多い。たしか、五人ほどいたようだが。跡継ぎは正妻の産んだ長男だが、えらく好戦的な野心家で親父そっくりだと言われている。次男も正妻の子だが、病弱で早くから仏門に入っている。残りはみな母親が違うらしい。」

家を継ぐためには男児が必要なのは武門の習い。多ければ多いほど、継嗣に何かがあったときに慌てずにすむ。人手の点からも子供の多いのは良いことであった。西条は領内の有力者から妻や側室を娶り、それぞれに子供を産ませていた。それで領内の安定を図るというのが目的だが、お家騒動の元でもあった。

「身なりから行っても、その五人のうちの一人だろうね。でも、長男と次男ではなさそうだ。じゃあ、三男か?たしか、年は俺たちと同じぐらいだと思うけど。」

捜索隊がいくつも出ているというのなら、西条の中でも重要な男なのであろう。重要な手駒になりそうだが、そのためにはまず生きていてもらわないと困る。気が付くのを待って、本人と話してみようということになった。

立木の館は昔からあったが、司はあまり来たことがなかった。先日つくしを連れに来たぐらいである。ということは、村のものは司を見たことがなかった。噂には聞いていたが、人並み優れた体格。背が高く、眼光が鋭い。そして髪は珍しい巻き髪で、髷を結んでいるふちでくるくるとしている。でも何よりもその特徴は、美しい、としかいいようのない容貌。秀でた額とすっと通った鼻梁。目は切れ長で、伏せられるときは長い睫毛が影を落としている。薄い唇を引き結んで、皆の話を聞いている様は、どこかの神が人の形をとったのではないか、と思うほど覇気に満ちていた。

女たちはその顔に見惚れ、男たちは男としての器量に見惚れた。特に、評定に加わった男たちは、次代の主として、司を認め始めていた。

**

つくしは山で採ってきた薬草をすりつぶして煎じ、根気よく熱の高い男に飲ませ続けていた。折れた足の包帯を替え、苦し気な男の額を冷やし、不眠不休で世話に当たっていた。

評定を終えたあと、司が顔を覗かせたが、つくしが静かに世話を続ける様を見て、そのまま去っていった。まだまだやることがたくさんあったからだ。

類がひょっこりとやってきて、つくしの傍に座った。
「具合はどう?」
「はい、熱がやっと下がってきたようです。長老に聞いた薬草が効いたみたいで…。」
「そっか…。名無しの権兵衛のこいつが誰かわからないと、手の打ちようがない。面倒をみてやって。」
つくしは、「はい。」と頷いた。

桜子が簡単な食事をもって現れ、しばらく看護を変わってもらって、食事をし、次の薬を煎じるために部屋を下がった。ところが、煎じるための薬草が残り少ない。山で採っているときに男たちが現れたので、量をあまりとることができなかったのだ。

あの怪我人は、大事な人らしい。早く熱を下げるように類様も言っていた。そのためには、薬草を採りに行かないと…。

さすがに怪しい男たちがいる山へ、一人で行くつもりはなかった。常になく人が多く、ざわめいている中から樵の治平を探し出し、山へ一緒に行ってくれるように頼んだ。


cup お詫びとお知らせ

2019.06.09 Sun

こんにちは。
乙女椿に来ていただいて、ありがとうございます。

まずは、お詫びから。
話の内容ではなく、アップロードのミスが多くて、申し訳ありません。
まとめてアップするときなど、必死で設定していくのですが、気が付いたら間違えてることがよくあります。予約投稿なのに、日付いれても、そのまま保存してしまって即座に公開になっていたり。
先日、スマホで自宅を読み返していたら、「はじめに」のカテゴリーに3つ記事がある。あれ?あれ?と思ったら、だいぶ前の記事のカテゴリを間違えてそのままにしていたのが発覚。
公開の時に来ていただいた方はいいのですが、まとめ読みしてくださった方など、話が途中で切れてると思ったかも。申し訳ありませんでした。今後気を付けます。

さて、お話の方ですが、「はなふさのくにのものがたり」第三部を、6月11日からアップします。奇数日の19時に公開していきます。どうぞよろしくお願いします。



cup 梅雨寒(白の部屋ver.)

2019.06.03 Mon
日本家屋は、木と紙でできている。もちろん、土壁があるし、耐震のために金具で補強したりしているが、梅雨時には、畳も廊下もなんとなく湿気を帯びている。天井が低く、日中でも薄暗いのが、雨が降ると余計に暗くなる。稽古のあと、つくしは縁側に座って、ぼーっと庭を見ていた。

茶室のある庭はきれいに庭師によって整えられているが、つくしが見ていたのは住まいのほうの庭。前栽には紫陽花が植えられて、雨に濡れて、そこだけうすぼんやりと明るく見えていた。

お稽古の時は、着物を着ているが、湿気が多くなると気温が高くなくても、暑い。でも、こんな雨の日はうすら寒くて着物の温かさがありがたかった。

「寒いのか?」

いつの間にか傍に来ていた西門さんが、尋ねてきた。

「うん…」

連休のあと、やたら気温が高い日が続いて、もう夏が来るのかと思いきや、日が暮れるとストンと気温が下がり、まだ春の名残。日中は汗をかき、朝晩は薄着では震えるよう。体がなんとなくだるかった。そのまま梅雨に入り、暑いのか寒いのかわからないままの、毎日。仕事中は気を張っているし、空調の整ったところにいるけれど…。

ふわっと西門さんのお香の匂いが近づき、そのまま、うしろから抱きしめられた。驚いて振り返ろうとしたら、耳元でささやかれた。

「寒いんだろう?あっためてやるよ」

いつもだったら、即座に反撃するけれど。西門さんの体温が温かくてとても気持ちが良くて、逆らえなかった。一瞬固くなった体は、温かさに反応してだんだんほぐれ、いつしか西門さんの胸にもたれかかっていた。

西門さんは、何も言わなかった。ただ、黙って抱きしめてくれていた。私も何も言わなかった。ただ、温もりだけを感じていた。薄暗くなっていく縁側で、ただ、二人だけだった。
**

気が付くと、布団に寝かされていた。おでこには冷えピタ。枕元にはお盆があり、湯呑がおいてあった。

「起きたか?」

顔をのぞかせたのは、西門さんと、家元夫人。ぎょっとして起きようとすると、やんわりと肩を抑えられ、寝かされてしまった。

「お前、熱があったんだよ。なんかおとなしいなあ、と思ったら、俺にもたれてそのまま寝ちまってて。運ぼうとしたらぐったりしてるんで、慌てておふくろを呼んだんだ。」

「もう、驚いたわ。牧野さんが具合が悪いようだって、総二郎があたふたと言いに来たのよ。とりあえずは、熱があったので、湯冷ましを飲ませて、こちらにお寝かせしたのだけど。」

「す、すみません、ご迷惑をおかけしてしまって…! すぐに失礼しますので!」

「熱が下がるまで、ここにいろ。」
「そうよ、まだ熱が高いから動くのは無理だと思うわ。」

二人がかりで説得され、体をおこしただけでめまいがしたこともあって、そのまま、西門家にお泊りすることになってしまった。何か食べられるか、と聞かれても、食欲もなくて、渡された薬を飲んで、前後不覚にまた眠ってしまった。

熱にうなされた切れ切れの眠りの中、傍には誰かがいて、優しく頭を撫でてくれ、カラカラののどを潤す水を飲ませてくれた。何か話す声が聞こえたけれど、朦朧としていて何もわからなかった。

**

ひんやりとしたものが触れて、目が覚めた。

「わり、起こしたか?」

外はまだ薄暗いが、障子越しに朝の気配がする。西門さんが、端正に座っていて、その手が額に触れていたのだ。

「やっと熱が下がってきたな。一晩中、お前うなされてたぞ。」

「…傍にいてくれたの?」
ガラガラの声できいた。

「ああ、あんなに熱が高いとな。一人にしておくこともできないし。」

静かに、「心配したぞ」と言う、その言葉に思わず涙が出た。

「…どうした?」

ずっと一人だった。
両親は別に暮らしているし、弟も独立している。普段は気楽な一人暮らしだけれど、病気になると辛かった。熱があっても自分で何もかもしなくてはならない。冷蔵庫の中が空っぽで、食べるものが何にもなくて。病院に行くことすらできなくて。

誰かに縋りたくても、誰もいない。

泣き顔を見られたくなくて、布団で顔を隠したけど、心細さが一気に出て、涙が止まらなかった。…傍にいてくれるだけで、心が弱くなって、いつもみたいに我慢ができなかった。

「俺が傍にいるから」

「うん…ありがとう…」
頭を撫でてくれるその手に安心して、再び眠った。

**

その日のうちに熱も下がり、おかゆを食べて、だいぶ気力がわいてきたので、顔をのぞかせた内弟子さんに、帰ることを告げたら、総二郎が帰るまで待つように言われてしまった。一晩中看病してくれて、そのまま仕事に向かったらしい。礼も言わずに帰ることもできず、仕方なくそのまま部屋で休んでいたら、やっぱりまた寝てしまった。

「どんだけ、疲れてたんだ?」
『うん、ずっとずっとがんばってたから』
「このまま、ずっとここにいろよ」
『そんなことできないよ』
「だって、お前、俺が好きだろう?」
『うん…』

はっと目覚めたら、そこには満面の笑顔が二つ。ん?二つ?じゃなくて三つ?

ぎょえーっ、な、な、なんで、西門さんだけじゃなくて、お家元と家元夫人がいるの?

「ということですので、牧野はこのまま、ここに住まわせたいと思うのですが」
「そうだな。一人では大変だろうし、部屋はいくらでもあるし」
「まあ、うれしい!牧野さんが一緒に住んでくれるなんて!」

ちょいちょいちょい~~~!

声なき絶叫は誰の耳にも入らず。
そのままつくしは西門家に住むことになった。

「だってお前、俺が好きだろう?」

ことあるごとにそういいながら抱きしめる男にがんじがらめにからめとられ、つくしは西門になったのだった。






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