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プロフィール

ロキ2017

Author:ロキ2017
ひっそりとこっそりと作りました。
乙女椿の花言葉は「控えめな愛」「控えめな美」。
そんなお話をつづっていければと思っています。
よろしくお願いします。

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cup はなふさのくにのものがたり 19

2019.02.19 Tue

滋は西の対屋の寝所のそとの濡れ縁で、ぼんやりとしていた。男装は解き、女らしい小袖になっている。つくしは、滋にとって大事な友だった。そして、司は縁談の相手。司は今は振り向いてくれないけれど、いつかは自分の事を見てくれる。夫婦になれば、と思っていたのだが。

「つくしのことを、あんな風に抱きしめてた…。」

初めて見た司の優しい顔。愛しいと目が言っていた。でもそれは自分にではなかった…。

いつか自分にも、自分だけを見てくれる人が現れる。大河原の姫、ではなく、単に滋として見てくれる人がいたら。それは自分の国では無理だから、外へ出たのに。…なんで上手く行かないんだろう。なんで司は、私をつくしみたいに見てくれないんだろう…。

「姫。」
呼ぶ声が聞こえ、振り向くと、そこには司の姿があった…と思いきや、司ではなく亜門だった。はっとした滋は、まだきちんと礼を言ってなかったことを思い出し、危ういところを助けてくれた礼を述べた。

「…月を見ておいででしたか?」
「…いえ。…考えていました。」
なぜ、自分ではだめなんだろうか、と。小さな声で呟かれたその言葉に、頑是ない子供のような哀しさを感じて、亜門は滋の事を知りたい、と思った。

楽しそうに女たちとしゃべる様子。凛として男たちに対峙する姿。司の縁談相手だとはわかっていたが、亜門は滋のことが気になっていた。

陰から、フクや滋の乳母たちが様子をうかがっているのはわかっていたが、二人はぽつぽつと話を交わし続けていた。

**

右近の必死の問いに司は答えなかった。答えられなかったのだ。がっくりとうなだれる右近に柾は、もうしばらく返事を待つようにとの言葉を与え、去らせた。そして、司を厳しい目で見た。

「とりあえずは許嫁となるように言ったはずだが?」
「…。」
「このままでは、縁談は調わず、大河原家との同盟は無理となる。さすれば、西条はどちらの国にも手を伸ばしてくるだろう。西条が治める土地は豊かだが、流通に難がある。街道に税をとるための関所を設けても、道明寺の港から品物は出入りする。街道だのみだけでは、限界がある。寺社仏閣や薬としてもつかわれる大河原の丹を手に入れ、それを積みだす港が手に入れば、大きな力が手に入る。」

そう、それこそが西条の狙うもの。重苦しい空気のまま、とりあえず評定は終わった。

そのころ、楓のもとにはタマを通じてフクから知らせが入っていた。亜門と滋が話をしているとのこと。亜門は司のライバルで、道明寺家の跡継ぎ候補である。もし、亜門が滋を手に入れると、道明寺家にとっては良いことだが、司の立場は悪くなる。楓にとって、それはあってはならぬことであった。

あきらにもその知らせは入り、総二郎とともに、まさか、と思いつつも、似合いかもしれないと思っていた。破天荒な滋と穏やかな亜門。いい組み合わせである。だが、司はどうなる?亜門はどうするつもりなのか、確かめねばならなかった。

司はまっすぐに東の対屋に戻った。そこにはつくしがいる。部屋に入るなりつくしを抱きしめ、何か言おうとしたつくしの口をふさいだ。心の鬱屈と熱情をそのままつくしに注ぎつつ、夜は更けていった。

**

次の日、つくしは楓のもとに呼ばれた。つくしは覚悟していた。司のもとを去るように言われるだろうと。自分の前にかしこまるつくしを見つつ、楓はどこが司の気に入ったのかと考えていた。最初に会ったときに比べ、つくしは確かに変わっていた。何事も一生懸命なつくしは、タマから与えられた仕事だけでなく勉強も頑張っており、最初の頃の垢抜けない様子とはまったく違っていた。その上、司に愛されたことにより、女らしさも加わって、思わずハッとするような輝きを見にまとうようになっていた。

「…私が言いたいことはわかりますね?」との楓の問いに、
「…はい、わかっております。司様のおそばを去るように、とのことでしょうか。」とつくしは答えた。
そこには、素朴な足軽の娘はおらず、見事に成長した女性がいた。楓は改めてつくしのことを惜しいと思った。もし、この縁談がなければ、司の傍に置いておくのにふさわしくなっただろうに、と。

とりあえずは山の別邸に向かうように言われ、つくしは身の回りの物をまとめて、フクとタマに挨拶をし、下男に付き添われて別邸に向かった。その懐には、白と黒の碁石をひとつずつ、袋に入れてしのばせていた。

司は、何か買ってやろう、美しい着物がよいか、髪飾りが良いか、と何度も言ってくれた。でもつくしはお菓子の類はもらっても、高価なものは受け取らなかった。分不相応だと思っていたからだ。でも、司のものが何か欲しかった。何度も遊んでもらった碁石。いけないことだとは思っていたが、どうしても何かよすがが欲しかったのだ。

別邸について、部屋に入った途端に涙があふれた。
司様、司様。…おそばにいたかった。
カタンと音がするのに振り返ると、なんとそこには進がいた。

「姉ちゃん…。」
「進、なんで…?」

進はすべてを類から聞かされていた。そして、どう事態が動くかを説かれ、その間、姉のもとにいることを指示されていたのだ。

「姉ちゃん、皆、姉ちゃんと司様のために動いてくれている。だから、あきらめないでいるんだよ。」

久しぶりに会う進は、あの頼りない弟ではなく、しっかりとした男になっていた。あきらに引き抜かれ、類のもとで多くを学び、戦略や方略までたてられるようになっていたのだ。

「…なんか、生意気。進のくせに。」と思わず言うと、「あーっ、俺だってずっと類様のもとで、勉強してたんだからなー」とふくれている。
久しぶりの言い合いが楽しく、少しだけ心が楽になった。
「うん、わかった。ここでがんばって待ってる。」とつくしは進に言った。



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cup はなふさのくにのものがたり 18

2019.02.17 Sun

館へ戻ると、あきらは子細をそれぞれから聞いた。探させてはいるが、男たちは手練れの様子。そうそうに見つからないだろう。桜子と優紀からは、最初は桜子を連れて行こうとし、つくしが桜子の事を呼んだとたん、滋姫ではないのかと言われた事を聞き、狙いは滋姫であったこと、そしてどこかへ連れ去ろうとしていたことがわかった。

滋の警護のものたちは、当て落とされ、気を失っていたところを発見されていた。見つけたのは亜門で、すぐに館に知らせを走らせ、自分は女たちを助けるべく、駆けつけてくれたのだ。知らせを聞いた柾はすぐさま家宰の匠(美作父)に命じあきらや総二郎を向かわせたが、聞きつけた司が飛び出し、右近と類がそれを追っていた。

滋は、自分が狙われたことをわかっていたが、理由はわからなかった。あの男たちは誰なのか、なぜ、自分をかどわかそうとしたのか。でも、それよりも、司の腕の中にいたつくしがショックだった。自分は司が気に入っている。そしてつくしも好きだ。自分はどうすればいいのだろうか、と。

桜子は、つくしが憎たらしかったはずなのに、自分をかばって飛び出し、怪我をしたつくしが、気になっていた。初めて女の子同士で、あれだけ楽しく過ごせた。もっとつくしと一緒にいたかった。滋姫も優紀も一緒に、あんな風におしゃべりできたら。…寂しくないのに。

あきらは、そんな桜子の様子に気付いたようで、涙をためている桜子に聞いていた。
「…今回はお前ではないんだな。」
「…!違います!…確かにごろつきに命じたのは私です。でも、つくしはそんな私に気付かず、優しくしてくれた。着物や、袋や、紅や…。お、女の子らしい話をいっぱいして、あんなに楽しかったのに…。わ、私をかばって、突き飛ばされて…。」
しゃくりあげながら言いつのる桜子を優しい目で見たあきらは、乳母と侍女に桜子を休ませるように言って、皆の集まる評定所に行った。

そこには、柾、司、亜門、そしてお側衆の三人。家宰の匠。右近がいた。
「亜門、今回は助かった。こちらへは祭りに?」と柾。
「はい。久しぶりに司たちに会おうと思ってきたのですが、途中、道が通れなくなっているところがあり、遅くなりました。」
「…道が通れなくなっていた。これは、あやつらの仕事ということか。」
「…おそらく。」

「右近殿。こちらは、亜門。先代の息子で、私の甥にあたる。司の従弟なんだが、昔からよく似ていて、間違われたものだ。」
「お初に御意を得ます。この度は、滋姫の危難をお助けいただき、ありがとうございました。」と右近は平伏した。
「それで、今回の件は、誰が…?」

匠があきらを促し、あきらが報告を始めた。
「滋姫の警護の者たちは、館に戻る途中、林のあたりでふいに出てきた男たちに当て落とされたそうです。よって、男たちの姿を見ておりません。ただ、複数いたということと、気配を消していたという事だけです。」
「女たちはいつの間にか囲まれていて、男たちは全員覆面をしていたと。人数は5,6人だったと北の対屋の侍女である優紀が言っております。そして、桜子の腕をつかんで連れて行こうとしたところで、つくしが男に飛びついて阻止しようとし、桜子を放すようにと叫んだことで、頭らしき男が、『滋姫ではないのか?』と言ったとか。つまり、狙いは滋姫だったと思われます。」

「なぜ、姫様が狙われるのでしょう?」と右近。顔には、心労が出ている。破天荒な姫ではあるが、かどわかされそうになったわけが判らず、困惑している。

司が類に尋ねた。
「類。…俺との縁談のせいか。」

「ん。たぶん。」と類。

「類、皆にわかるように説明せよ。」
柾の言葉に、皆の視線が集中した。

「狙いは滋姫。ただし、殺すのではなく、かどわかすのが目的。理由は、道明寺と大河原の縁組を阻止するため。」

ただ、祭りの日に合わせて乗り込んできたようで、滋姫の顔を知らず、その噂も聞いていなかったため、四人のうち一番姫らしい格好をしていた桜子を姫と間違って連れ去ろうとしたのだと。

「かどわかしてどうする気か?」

「…おそらく、西条の誰かと娶せ、丹を手に入れようとするかと。」と類。
右近は真っ青になっている。

つまり、男たちは西条の手のものだと、類は言っているのだ。

たとえ無理やりとはいえ、正式に妻にめとったと言われると、女は従うしかない。滋は危ういところだったという事を右近は恐怖と共に思い知っていた。

「つ、司様!」
右近は必死だった。滋姫が望んでいるこの縁談は調うのか、どうか。

亜門がすっと立ち上がり席を外した。それを見送りつつ、匠は前から疑問に思っていたことを右近に尋ねた。

「滋姫は一人娘でいらっしゃるとか。本来なら婿をとるのではないのですか?なぜ、外に出そうとされているのですか?」

「それは…。」
右近いわく、婿として大河原に入ることを望む男は多く、滋は常にそんな人に晒されていた。陰で女らしくない、とか、変わっているなどと言われているにもかかわらず、追従まじりに寄ってくるものたち。男と言わず女と言わず、そんな有象無象に囲まれていた。

それならばいっそ、外へ出して、その子どもの一人を跡継ぎとしてもらいうければいいのではと、大河原の領主は考えたのだ。どちらかというと視野が狭い山の国のものたちに比べ、通商で栄え、英明と名高い領主が治める道明寺家ならば、滋姫はのびのびと暮らせるのではないか、と。

司については、あまり良い噂は聞かなかったが、勇猛果敢であり優れたお側衆がつき、女には厳しいとのこと。それならば滋と上手く行けば、なんとかなると考えたのだ。

「実際、滋姫様は司様のことを気に入られ、縁談を進めてほしいとおっしゃってましたので…。」

可愛い娘のために、あえて外へ嫁がせようとした親。柾も匠も、それだけ滋姫は大事にされていた姫なのだと実感していた。



cup はなふさのくにのものがたり 17

2019.02.15 Fri

歌垣も終わりに近づき、人も少なくなり、祭りは終わりを迎えようとしていた。四人は楽し気に笑いさざめきながら館へと向かった。すでに日は暮れている。酒に酔ったものがちょっかいをかけようとしても、滋の警護のものがいたため、安心して夜道を歩くことができた。

ふと気づくとその警護がいなくなっていた。
「あれ?はぐれたのかな?」と周りを見回してみても、姿が見えない。
それでも、四人でいれば大丈夫かと、心持ち足を速めて道を急いだ。
…いつの間にか囲まれていた。

「誰!」
面を覆面で隠した男たちは、しん、と物も言わずにたたずんでいる。男の一人が桜子の腕をつかみ、連れて行こうとするのを見て、思わずつくしはその男に向かっていき、桜子を助けようとしたが、跳ね飛ばされてしまった。

「助けてっ」という桜子の悲鳴。
「きゃああっ」という優紀の悲鳴。
「桜子さまを放せっ」というつくしの声を聞いて、男たちがざわっとした。

「桜子…?」
頭らしき男が不審げにつぶやいた。

「お前は滋姫ではないのか?」

男たちの狙いは、大河原家の姫である滋だったのだ。
このとき、桜子は美しい着物。つくしと優紀はこざっぱりとしていても、つましい着物。そして滋は男装。一番、外見が姫らしかったのは桜子であった。

滋は一応男装のときは刀をさしていたが、飾りだけである。今も、唇を引き結んで男たちをにらみつけてはいたが、刀を抜こうとはしていなかった。

「お前たちは何者!?」と凛とした声で再び問いを放つ滋に、男たちは再びざわめいた。男だと思っていたが、女だったとわかったからだ。さては、これが滋姫…?

じりっと間を詰めてくる男たちに、逃げることもできず、男の手を振り払った桜子と4人、手を取り合って、震えていた。

タンッという音がして、頭目らしき男の頭をかすめて矢が飛んできて、そばの木に突き刺さった。続いて、ひゅん、と二の矢、三の矢が飛来して、男たちは一気に浮足立った。

「こっちだ!」という声に、「ちっ」と舌打ちした男は、滋姫の顔を目に焼き付けるようににらみつけ、ざっという音とともに、散っていった。

助かった…。思わず女たちはへたり込んでしまった。

「大丈夫か?」と声を掛けてきたのは、背の高い男。

「司様?」
「若様!」
「司!」
「司様…じゃない…。」

つくしの声に、皆が、え?という顔をするが、よく見ると男の髪はまっすぐである。顔は司とそっくりなのに、確かに髪の毛が違う。

「亜門さま…。」という桜子の声に、
「久しいな、桜子。」と答えたのは、先の当主の息子、亜門だった。
その手には、弓矢を持っていた。さっき矢を放ったのは、亜門だったのだ。

その時、「滋姫さま~!」という右近たちの必死の声が聞こえ、
「右近、こっちだ!」と答える滋の声に、まっすぐこちらにやってくるのが分かった。

つくしは、亜門の顔をまじまじと見つめていた。確かに同じ顔なのに、こちらは端正で物静かな雰囲気を湛えている。ああ、目が違うんだ…。司様の眼はもっと鋭くて厳しくて、でも笑うときにはお日様がきらめくようで、つくしと呼んでくれる時は、優しくて…。

そんな視線にふっと笑った亜門は、「お前がつくしか?」と尋ねた。
「は、はい!つくしと申します。」
まじまじと顔を見つめていたことに気付き、ぶしつけなことをしたと、思い切り頭を下げた。

「つくし!」と呼ぶ声が聞こえ、いきなり抱きしめられたのは、本物の主の胸の中。思わずつくしも、しがみついた。
「司様!」
「ケガはないか!」という声に、首を横に振って、ぎゅっとしがみついた。

「司…。」
亜門の声に、振り返れば、そこにいるもの皆が二人を凝視している。
「え…?司?つくし?」と困惑したような声は、滋姫のもの。

「亜門、久しぶりだな。」
「ああ、危なかったぞ。お前のつくしは、桜子を助けるために、男に体当たりしにいったんだ。」
「何だと!」

つくしは、司の温かさに浸っていたが、気づけば、ここは衆人環視の中。

「ぎゃっ」と言って、思わず主を突き飛ばした。
ふいをくらってたたらを踏んだ司が、こめかみに青筋を浮かべて、「つくし、お前は!」と怒っている。

「ひ~ん、すみません!」と真っ赤になっているつくしを見て、思わず亜門が笑い出した。遅れてやってきた総二郎やあきらが、またやっているというように、笑っている。

「ほんとうに、怪我はない?」と類が聞くのに、
「はい、ちょっと擦りむいたぐらいで…。」と答えているのを聞き、また心配そうに司はつくしの手を覗き込んでいる。

頼りなげな顔で、眉を下げている滋姫に、桜子と優紀が寄り添い、そばで右近がため息をついている。総二郎は、「滋姫を館へお連れするように。」と促し、周りを警護で固めて歩き出した。

気づいたつくしは、「あ…。」と後を追おうとしたが、類に止められ、滋姫に悪いことをしてしまったと、がっくりと落ち込んでしまった。

「あやまっちゃだめだよ。」と類。
振り仰いで類を見るつくしに、「司が好きなんだろ?」と聞く。
思わず、コクンと頷くのに、「じゃ、あやまっちゃだめだ。」

これまで人を好きになったことがなく、恋愛経験値が低いつくしには、こんな時にどうすればよいかわからなかった。滋姫様がいらっしゃるのに、司様を好きになってしまった。お家のためにも、お二人の邪魔をしていけないとはわかっているのに…。それでもつくしは司が好きだった。司の熱い想いに身を任せて縋りつくことしかできなかった。



cup はなふさのくにのものがたり 16

2019.02.13 Wed

現れたのは、あきらと総二郎だった。
お偉いさんたちの宴を抜けて、見回り方々女の子たちをからかいにいくところで、悲鳴を聞きつけてやってきてくれたのだった。
遅れてやってきた部下に男たちを引き渡し、せっかくの晴れ着が汚れてしまった和也や、震えているつくしや優紀をなぐさめた。滋姫はというと、キラキラと目を輝かせて、「かっこいい~」とぴょんぴょん飛び跳ねている。

「…なんで滋姫様がこちらにおいでで?」
「えへへ。お祭りってきいて、行きたくなったからきちゃった。」
「はああ、右近殿は?」
「うーん、どっかにいると思うんだけど?」

「姫様。姫様の身に何かあったら、英の国の責任になるんですよ!お供もなしに、ほっつきあるくのはやめてください!」
「まあまあ、あきら、なんとかなったから、まあいいじゃないか。姫、宴にはおいでになるのですか?」
「うん…つくしたちと一緒にいちゃだめ?」
「「ダメです!!」」

わいわいと騒ぐ一群を木陰から見ているものがあった。桜子である。男たちはつくしに辱めを与えるように桜子から命令されていたのだった。

“お前がつくしか”
男の一人が発したこの言葉。誰も気にしたようではなかったが、誰かの指示であることを示していた。失敗した様子に、顔をゆがめて舌打ちし、身を翻そうとしたとたん、すぐそばに人がいることに気がついた。

「あれは、あんたの命令だったわけ?…三条の」
「類様!」

無表情な顔のまま、桜子を見据えて静かに言葉を発する類。怒鳴りつけられるより、ずっと恐ろしかった。

ばれた…!でも、証拠はない。あんなやつらのことを誰も信じないだろうし。
心の中ではそう思うのに、言葉は震えてしまい、顔はこわばっている。

「な…なんのことでしょう?」

「こんなことをすると、司があんたを殺すよ。」

ぎくっと顔を上げたときには、類はみなのもとへ歩み寄って行った。類に気づいた総二郎とあきらは、真っ青になっている桜子を見て、なんとなく黒幕を察したようだった。

「はああ…桜子が、かよ」
「あいつは、司一筋だったからなあ」
「いい加減、あきらめりゃいいものを」
小声でやりとりする総二郎とあきら。

小さいころから同じ領内のものとして、みな桜子のことを知っていた。由緒正しい三条家の娘。両親が生きていたころは溺愛されてなんでも思う通りに行ったのに。司だけはどうにもならなかった。自分の思い通りにならないことがある。そのことが余計に司に執着させた。

動揺していた桜子は、木の根にけつまづいて、倒れた。

「大丈夫ですか!」
気遣う声とともに抱き起してくれたのは、司様をたぶらかしている、あの憎い女、つくし。
大きな目に心配を浮かべて、着物をはたいてくれている。

「お怪我はありませんか?」と問う声を無視し、つい、と顔をそむけると、逃げるように去っていった。
「えーっ、いっちゃうのー、一緒にお祭り見ようよー」と滋姫が後を追い、慌てて総二郎がついていく。

つくしは優紀とともに類に送られて館に戻っていった。あきらは和也とともに男たちを引っ立てて警備の詰め所のほうへ行った。

優紀はなんとなく桜子の気持ちがわかったようだが、つくしにはわからない。なんだか、顔が青かったけど、気分でも悪かったかな、と心配していた。

さて、ごちそうを食べた後は、最後に歌垣(うたがき)がある。若者の楽しみである。かがり火の元、歌い、踊る。自分の気持ちを伝えてうまくいけば、カップルになれる。このときばかりは、意中の人に誘いをかけることができる。一夜のアバンチュールの相手でも、将来の伴侶でも。老いたものは自分の昔の武勇伝に花を咲かせ、若いころを懐かしむのだ。

花の四人組は当然多くの誘いを受けたが、総二郎とあきらはともかく、司と類は無視していた。つくしといえば、毎年誘いを受けるものの、踏ん切りがつかず。友達にはあきれられ、千恵を嘆かせていた。今年は、優紀と一緒に歌を聞いて、踊りを見て。輪の中からそっと抜けていくカップルに、自分の身を重ねて、司のことを想っていた。

「つくしっ」
呼ぶ声に振り替えると、滋姫ががっしと桜子の腕をつかんで、引っ張ってきていた。つん、とあらぬ方を見ている桜子の様子を気にも留めず、なんだかんだと話しかけている。

間近で見ると、やっぱり衣装がとびぬけて美しく、髪や化粧に気を使っているのがわかる。思わず、「わあ…なんてきれい。」と声を上げると、驚いたようにこちらを見て、まんざらでもない様子。

「…これは、京から取り寄せたものよ。」
「うわっ、すごい!」
「それに、この紅もね。」
「やっぱり!なんか、色が違いますよね~!」

つくしと優紀とがきゃいきゃいとほめそやすと、嬉しそうに自慢げに説明をはじめた。三条の家は前に京の公家から嫁いできた人がいたので、京と交流があり、都のものが手に入ったのだ。だが、自慢であっても、見せる相手がいなかった。父母が生きていたころは、まだ他家との交流も盛んだったが、父が戦で、母が病で亡くなった後、年老いた祖母と乳母、侍女たちしかいない家。もともと内弁慶で友達も少なく、それも長ずるにつれて、みな行儀見習いや嫁入りなどで交流がなくなり、桜子は常に一人だったのだ。

桜子は、様々な布が使われた袋を持っていた。
「その袋は、どんな風に作られたんですか?」
「ああ、端切れを組み合わせてみたの。古くなった着物や、余った布切れをためておいて、格子に繋いて、それを巾着袋に仕立てたのよ。」
「わあ…いいなあ…すごくきれい…。」

足軽の身分では、そうそう着物は数を持っていない。そんな端切れがある訳もない。1枚の着物を、大事に大事に繕ってなんども洗い、擦り切れるまで着るのだ。領主の館に来て、お仕着せとして着るものを貰ったが、それを除けばつくしや優紀には余分な着物はなかった。

「あー、余り布ってそうやって使えばいいんだー」と感心している滋も、桜子と同じく、幾枚も着物を持っている。美しい布を組み合わせた袋は、持てる者が限られるものだった。

女の子同士でおしゃれの話をするのは、楽しい。いつしか桜子も、笑顔を見せていた。



cup はなふさのくにのものがたり 15

2019.02.11 Mon

秋には英の国の一の宮である、英神社の祭礼がある。農作物の豊作を感謝する祭りはこの国一番のもので、老いも若きも、楽しみにしていた。今年は久しぶりに領主が帰還している。例年にも増して盛り上がっていた。主だった家臣たちが列を組んで堂々と宮入りし、厳かに拝礼する。宮司の幣が領主たちの穢れを祓い、誇らしげに積まれた米俵は、今年も豊作を伝えていた。
儀式を執り行っているのは代々宮司を務める藤堂家の当主。信心深い領民の尊崇を集め、その一人娘である静は美貌の巫女として有名であった。

静の舞はこの世のものとも思えぬと評判で、それがみられる奉納の舞は、満員盛況。警備をつかさどるあきらや総二郎は、あちこちに人員を配置し、大忙しであった。

留守居の年寄りを除いて、館のものもみな参加し、つくしは幼いころから楽しみにしていた祭りに今年は優紀と来ていた。いつもと同じに拝礼したけれども、去年とは違っていた。今までは家族のことを祈っていたが、願うのは想い人のこと。拝殿の奥にちらりと見える司のことを祈った。

「つくしちゃん!」
久しぶりに聞くその声は、足軽組頭の息子、和也のもの。
「うわあ、和也くん、久しぶり!」
「ほんとだよ、お館にいっちゃってから、全然帰ってこないんだもん。」
「だって、ご奉公したら、そうそう帰れないじゃない。」
「まあ、そうだよなあ。若様づきだって?すごいなあ。」
そばで、つんつんと袖を引くものがいる。
ハッと気づいたつくしは、優紀を和也に紹介した。
「あ、和也くん、一緒にお館で働いている優紀。仲良くしてもらってるんだ!」
「へえー、優紀ちゃんっていうんだ、よろしくね。」
「はい、和也さんって、組頭の青池家の?」
「ああ、そうだよ。」
「よろしくお願いします。」
それからは三人で参列する誰それの噂話や、今年はやりの着物のことなど、楽しく祭りを楽しんだ。

祭りといえば、なんといっても晴れ着と、ご馳走。
女の子たちは、ここぞとばかり年に一度の祭りのために衣装をあつらえたが、つましいながらもそれぞれの工夫を凝らしていて、見るも楽しいものだった。
そんな中、見事な衣装を着ている美しい娘が目に入った。

「ねえ、あれはどなた?」
「ん?ああ、あの萌黄色の衣装を着こなした、きれいな人?あれは、三条家の桜子様だよ。お館様と一緒にいらして、奥方様のところにおられるんだ。」

ふーん、すごい衣装だねえ、とひとしきり騒いでいたが、すぐにそばにある、焼き菓子の屋台からのにおいに気が付いて、すぐにそちらに気が向いてしまった。

「ねえねえ、焼き菓子がある!」
「わ、大好き♡、ね、ね、買おう!」
この時のために少ない小遣いをためていた二人はいそいそと屋台に向かった。

焼き菓子を三人でほおばっていると、いきなりどーんと体当たりされ、つくしは菓子をのどに詰まらせて、むせかえってしまった。

「つくしっ!」と呼ぶその声は…。
「滋姫様…?」
初めて会った時と同じような、男装のいでたち。大河原家の滋姫だった。

「お祭りだって聞いて、居ても立っても居られなくて、来ちゃった。」
いや、来ちゃったって…。
「あの、右近様は?」
「ん?そこらへんにいるんじゃない?」

れっきとした姫君がおつきのものも無しに、祭り見物…?
あり得ない!

優紀はびっくりして固まっているし、和也に至っては、滋姫と目の前の人物が同じとは思えず、?を頭の上に飛ばしている。

「ねね、それ何食べてるの?」
「あ、焼き菓子です。祭りの名物なんですよ。」
「わわ、食べたい!」
とつくしをひっぱって、屋台のほうへ行く。
「ちょっ、姫様、どれだけ買うんですか!そんなに食べられませんよ!」
「ん~~っおいしい!」
とぱかぱか菓子を口にほおりこんでいる滋。

「姫様、館へ来られるんですか?」
「うーん、どうしよっかなあ…。司には会いたいんだけどねっ」
つくしは思わず、はっとしてズキンとした胸を押さえた。

…そうだった。滋姫様は、司様の妻となられるお方なんだ…。
気が付いて心配そうにつくしを見る優紀。和也は本物の滋姫だと気づいてあたふたしている。

人ごみを避けて、神社の森のほうへ行った4人は、それでもおしゃべりをしながら焼き菓子を食べていた。このあとは、みなそろってごちそうを食べるのが楽しみである。館に努める二人は戻って手伝いをしなければならないが、自分たちもお相伴にあずかれる。祭りの楽しみのひとつだった。

はっと気づくと、人相の悪い男たちがまわりを取り巻いていた。
「へえ、にいちゃん、女の子連れてて、いいねえ。」
「おい、こっちも格好は変だが女だぜ。それもえらい美形だ。」
「ちょっと、つきあえよ。」

ちらと目を見交わして、つくしは優紀と一緒に男たちを相手にせず、きょとんとしている滋姫を引っ張って立ち去ろうとしたが、男たちはニヤニヤしながら、行く手を遮ってとうせんぼをする。

「お、おい、通せ!僕たちは忙しいんだ!」と和也がけん制するが、男一人となめてかかられ、誰も言う事を聞かない。腕づくで通ろうとして、突き飛ばされてしまった。
「和也くん!」と、倒れた和也のほうに行こうとしたつくしは、腕をつかまれて、そのまま連れていかれようとする。
「ちょっ、放して!」
「つくしちゃんに何をする!」
「つくしっ」

「へえ、お前がつくしか。俺はあっちのほうの女がいいなあ。」
「ついでだ、みんな連れて行けばいいだろ。」
下卑た笑いが続いて起こり、鳥肌が立った。
「さっさと行こうぜ。」

「放して!」
「放せ!」
「誰かっ、助けて!」

パンッっと音がして、男が一人吹っ飛んでいった。ドスッという音とともに、別の男がくたくたと崩れ落ちた。

「なんだ、こいつら。」
「祭りなのに、悪さをしようとするのは、誰だ!」



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