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cup 縁は異なもの 6

2017.08.17 Thu

「で、なんでこうなるの・・・?」
唖然とした牧野がつぶやいた。そばには、同じような表情の薫子さん。そしてここは、某夢の国。
歩きやすい服装で、と言われてきた二人は、なぜかここに車で送り込まれたのだった。ゲートの前で紹介されて、ワンデーパスを手渡されて。

確かに会ってみたいとは言ったけど、どこかで話をするぐらいで、一緒に遊園地で遊ぶとは普通思わないよね・・・。
でも!一度来てみたかったネズミの国!こうなったら、乗りまくってやる!パスがもったいないし!と握り拳。
「薫子さん!行きましょう!」と引っ張って中に入ったのだった。

「薫子さん、ここ来たことあります?」
「あの・・・、あなたはどなたなんでしょうか・・・」
「あっ、すみません。西門流で教室をしている、牧野つくしと言います。」
「牧野さん?」
「はい、西門さんから、薫子さんのことを伺っていて、一度お話してみたいな、と思ってたんです」
「それはどうして・・・」
「えーと・・・」

「あっ、あれっ、あれって、ス○○スマ○○○ンですよね!乗ってみたいんですけど、いいですか!」
「え、はい、どうぞ」
「じゃ、行きましょう!」
「えっ、わたくしもですか?」
「もちろん!楽しまなくちゃ!」

わくわくと走り回るつくしに引っ張り回されるうちに、よそよそしさがなくなってきた薫子は、一緒に楽しみはじめた。ここは夢の国。そして、ここでは誰も平等にゲストだ。主役はキャラクターたちで、自分たちはお客様。誰のためではなく、自分のために楽むところ。

つくしは列に並ぶ間に、自分の家族のことや貧乏だったことを屈託なく話し、F4との関わりも正直に話した。薫子も素直に頼りない弟や、マイペースな親たちについて話をし、お互いに共感しあった。長女気質の二人は、立場の違いこそあれ、感じることは一緒だった。そして、誇り高い薫子には、率直に話をする友人などそばにいなかった。自分の弱みを見せることは、相手につけ込まれること。そんな風に思っていたからだ。

人目も気にせず、耳付きのカチューシャをして、はしゃぎまくった二人。やがて日は暮れ、花火が上がり始めた。並んで花火を見上げながら、つくしは言った。
「薫子さんがいい人でよかった・・・」
「つくしさん?」
「薫子さんなら、西門さんを幸せにしてくれる・・・」
「ちょっと待ってつくしさん」
「え?」
「今日はどうして、わたくしと会いたいと思われたんですか?」
「あ・・・」
「もしかして、つくしさんは西門さんのことを」
「・・・ごめんなさい」
「つくしさん。謝らないでください。謝ったら、わたくしにも西門さんにも、自分にも失礼ですよ」

思わず顔をあげて、つくしは薫子の顔を見た。薫子は真面目な顔をして、つくしを見ていた。

「人を好きになるって、謝るようなことじゃないでしょう?」
「薫子さん…」

はっと気づいて、つくしは聞いた。
「もしかして、薫子さんも好きな人がいるんですか?」
目を伏せて、薫子はこっくりとうなずいた。
「この縁談は、家のためには必要なことだと、両親は勧めてきました。そしてわたくしはそれに従うのが当然であると。流派のものも、叔父もみなそう思っているのです」

「前に、1ヶ月だけニューヨークへ留学しました。その間、わたくしは誰の目も気にすることなく、自分のしたいことをして過ごしました」

楽しかった…とつぶやくように言ったその顔は、誰かを思っている顔だった。

祭りの後。何かもの悲しさを感じながら、ゲートを出ると、そこには大きな車が待っていた。乗り込むと、中には総二郎。

「どうだ、楽しかったか?」と聞けば、
「うんっ!」と答える、つくし。
そんな仲が良さげな二人を横に、ただ薫子は静かに頭を下げた。




つくしちゃんと薫子さんのディ○ニーデートです。大人が子どもに帰れるところ、として使いました。
敵ではなく友達になった二人です。

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cup 縁は異なもの 5

2017.08.15 Tue

続々と情報が集まっていた。

まず、滋。大学時代の薫子について調べてくれた。イメージとしては、誇り高き女王、なんだそうな。自分に自信があり、常にトップを走っていなければ気が済まない。そしてそのための努力は惜しまない。
「でもね、友達っていないんじゃないかな。なんかね、私もそうだったけど、一緒にいるのは、取り巻きみたいなのばっかりでさ。あんまりほんとの自分って見せない人だったよ。」

そして、桜子。上流階級の噂について。
佐原流にとっては、薫子は流派を守るためのコマの一つ。どちらかというと人のいいだけで凡庸な跡継ぎである弟を盛り立てることを求められ、実質的に仕事を切り回している。流派のためにも宣伝になるような良い家との婚姻を望まれている。
「お家のために、っていうのが薫子さまの至上命題って感じですわね。」

あきらは、佐原流の情報を。
日本でも有数の書道の流派だし、教室も手広く経営している。ただし、少子高齢化社会ではじり貧気味。現在の家元は実力はあるものの経営感覚に乏しく、実質的な運営は弟が担っている。家元にとっては甥に当たるその弟の息子を跡継ぎにしようと目論む一派があって、薫子といとこ同士で結婚させようという意見もある。
「内向きに狭いところでまとめちまおう、という一派が、いとこと結婚。それではもったいないからどこか外でよいお家と結婚っていうのが、大方の意見。どこでもあることだけど、お家騒動の火種を抱えているみたいだな。」

椿姉ちゃんからは、留学時代の薫子。
1ヶ月だけの短期だったが、NYへ語学留学していたらしい。寮へ入り、普通の学生として真面目に通っていたそうだ。ボディガード役として、事務長の息子がついてきていたらしい。
「たった1ヶ月だけど、すべてのしがらみから解放されて、自由に過ごせたみたい。明るくて楽しそうだった、って元クラスメイトが言ってたわ。」

そして類。薫子の母方の叔父に当たる政治家とは。
妹を佐原流に嫁がせて、その票を得ている現在、次の飛躍のために、新たな票田として西門流に目を付け、姪である薫子を送り込もうとしている。
「政治資金を得るためにも、西門流は大きな獲物。そしてそのエサには姪がちょうどいいと思ってるみたい。自分の息子に将来地盤を継がせるためにも、貪欲に手を広げようとしてるよ」

家元夫人の秘書の高橋。
西門流関東部局の重鎮たちは、自分たちの地位を固めるためにも、推薦する家との縁談をまとめようとしている。それで目を付けたのが薫子。政治家である叔父の存在も魅力的であると、積極的に推している。
「次期家元となる総二郎さんに対する発言権を得るためにも、自分たちが縁談をまとめようとしているようです。」

***

みんなの話をかいつまんで説明した。
じっと話を聞いていた牧野は、ぽつんと言った。「なんか、薫子さんってあたしと似てる気がする。自分のためにってことが一つもない。みんな、お家のため、みたいな。どんな人か、一度会ってみたいな」

そうだな。一度二人を会わせてみるのもいいかもしれない。
彼女が、この縁談についてどう思っているのか。家のため唯々諾々と従おうとしているのか。誇り高き女王と滋は言っていたが、納得しているのか。そこら辺を、牧野が聞き出せるか・・・?
まあ、無理だろうな。でも、牧野は人の懐にするりと入り込むことができる。牧野になら本音を漏らすかもしれない。




オリキャラがいろいろ出てきます。
佐原薫子(総二郎の縁談の相手) 佐原流家元の娘 弟が次期家元
流派を実質的に切り回している叔父と、政治家の伯父がいる

cup 縁は異なもの 4

2017.08.13 Sun

牧野が西門に来なくなった。火が消えたような屋敷。部屋も廊下も、リビングも食堂も、あらゆるところに、牧野の面影が残っている。「西門さん!」と言いながら、現れそうなのに。牧野はいない。寂しかった。

家元夫人はもちろんのこと、今回のことでは沈黙を保っている家元も、寂しそうだった。家元は俺のすることを静観してくれている。それはとりもなおさず、牧野のことを拒否してはいないと言うことで、それだけでもありがたかった。気楽な身の上の弟、幸三郎も事情は察しているようだが、会いに行こうかな、などと呟いている。

そうだ。会いに行こう。声も聞けないのはそろそろ限界だった。

まず、電話した。
「牧野?」
「・・・西門さん!」
「元気か?」
「はい・・・。あ、あの、今度のお茶事について、生徒さんから質問があったんですが・・・」
「ああ、それは・・・」
「あ、ありがとうございます。今までだったらお屋敷に伺って家元夫人や高橋さんに聞けたんですけど・・・」
「そうだな。情報が入ってきにくいか」
「はい・・・」

「牧野」
「はい?」
「会いたい」
「っ」
「お前に会いたい」
「・・・」
「お前は?」
「・・・」
「牧野、お前は?」
「・・・あたしも、会いたい」
「牧野・・・」
「西門さんに会いたいよう・・・」
電話の向こうで、かすかに聞こえる、涙混じりの声。

たまらなかった。何もかもほったらかして、会いに行きたかった。

「牧野、今からそっちに行ってもいいか」
「・・・はい」
「待っててくれるか?」
「はい・・・!」

***

はじめて来た、牧野の教室兼住まい。
お茶を出してきた牧野を横に座らせ、手を握って、今の状況を伝えた。皆が動いてくれていることを知って驚いたようだ。

「皆会いたがってた。しばらくは動けないかもしれないが、待っていてくれ」
「でも、あの、迷惑になるんだったら、」
「牧野」
「・・・はい」
「・・・頼みがある」
「はい」
「俺のそばにいてくれ」
「へ?」
「お前が好きだ」
「え?ええええっ?!!!!」

あのなあ。さっき玄関のところで抱きしめたよな。額にキスもしたんだけど。それで、まだわからないわけ?
真っ赤な顔であたふたしている牧野を見ていると、なんだか笑えてきた。
くくくと笑っていると、牧野が「笑うな!」と手を振り上げる。
その手をつかんでそのまま引き寄せ、抱きしめた。
「つくしちゃん、俺を見捨てないでよね」
牧野は絶句して、カチンコチンに固まっている。
愛しくて、可愛くて、思わず、キスをした。




ここで第1話冒頭へとつながります。
この回はえらく短いです。申し訳ありません。

cup 縁は異なもの 3

2017.08.11 Fri

俺がやるべきこと。あれこれ言われないだけの実力をつけること。それとは別に、縁談について真剣に調べていくことにした。牧野のことをよく知り、また買ってくれている家元夫人の秘書を巻き込み、相手についてのデータを集めることにした。ところが調べれば調べるほど欠点がない。永林大出の才媛。成績はトップクラス。語学も堪能で、短期とはいえ、アメリカに留学もしている。歌舞音曲すべてに秀でていて、書道だけではなく、古楽部にも在籍していたらしい。

縁談を推し進めようとしているのは、西門の中でも実力を持つ、関東地区の部局の者たち。そして、仲立ちは政治家でもある、彼女の親戚。このままでは、クモの巣に絡め捕られるように、身動きが取れなくなる…!

自分だけの力ではどうしようもない。あいつらに頼ることにした。
まず、滋。永林大の出身だから、何か知っているかもしれない。
桜子には、いわゆる上流階級の噂を探ってもらうことに。
そして、あきら。その情報網は大きい。この縁談に関する力関係を調べてもらうことにした。
アメリカ留学時代のことに関しては椿ねえちゃん。司に頼んでも無理だろうし。
…類には頼むことはないが、さて、どうしようか。

連絡すると、みんなにはいろいろと怒られた。けど、みんな牧野のことを気にしていたのか、協力を約束してくれた。そして、会う機会を作るように言われた。

***

類に連絡を取った。プライベートの番号にかけたら、すぐにつながった。
「・・・総二郎?」
「ああ、俺だ。久しぶりだな、類」
たまたま会食が終わって、車に乗ったところだったらしい。話があると言ったら、今からなら、と言われ、なじみのバーで会うことにした。そこは、昔からたまり場だった店。思い立ってあきらに連絡を取ると、少し遅れるが行けるとのこと。3人で集まることになった。

店に着くと、すでに類は来ていて、カウンターで水割りを飲んでいた。横に座ると、目を上げて、俺を見てくる。おいおい、何か言えよ!
苦笑しつつ、バーテンダーには同じものを頼み、「久しぶりだな」と言った。
だって、呼び出したのは、総二郎じゃん。とブツブツいう類。会食ですでにその日の分の愛想は使い果たしたらしく、ムスッとしたままグラスの中を見ている。もう少ししたらあきらも来ることを伝え、それからは二人で酒を飲んだ。特に何を話すこともなく。気を遣うこともない相手との酒。しばらくぶりだった。
あきらがやってきたところで、場所を個室に移し、類に事情を告げた。
「牧野が・・・」と驚いた様子で、学生時代を思い出したのか、ふっと顔が優しくなった。
「変わってない?」と聞くので、「ああ、中身は変わってない」と応えた。
「ってことは外側は変わったって事か?」とあきら。
「驚くほど」と、言うと、興味を惹かれた様子。

「総二郎」と類。
「牧野が好きなの?」と聞いてきた。
「ああ、好きだ」とためらいなく応えた。
その透き通った瞳で、じっと見つめてきたが、目をそらさなかった。

驚いたようなあきらは、ふっと笑うと、「そっか」と呟いた。
司の時は、俺たちは何もできなかったからな。できるだけのことをするよ、とあきら。
類は目を伏せて、ふうっとため息をついて、「牧野は?」と聞いてくる。
「牧野は知ってるの? 総二郎の気持ち」

「いや」と応えたら、二人とも驚いたようにまじまじとこちらを見るので、きまりが悪くなり、「だって、仕方ないだろ、あの鈍感鉄パン女だぞ!」というと、吹き出して笑い始めた。
「そりゃな、司だって、あれだけ追いかけ回してやっと捕まえたんだもんな」
「蹴っ飛ばされたり、殴られたりしてたよねえ」
「総二郎もそうなるのかな」
「面白いかも」

おい、二人して、俺で遊ぶな!

類がため息をつくようにして言った。「牧野に会いたいな」
あきらがしみじみと言った。「ああ、会いたいな。あの頃が懐かしいな」

俺たちに革命を起こした女。
何の責任もなく、ただ毎日過ごしていたあの頃。
今はもう遠い昔のようだ。

なんでも協力するよ、と類は言った。
ああ、もちろん、俺も、とあきらも言った。
類は、彼女の親戚である政治家の方を調べてみる、と言ってくれた。
ありがたかった。




自分だけではどうしようもないのがわかり、総二郎は幼なじみ達をたよることにします。
それは、つくしのことをみなに打ち明けると言うこと。
みなが協力してくれることになります。



cup 縁は異なもの 2

2017.08.09 Wed

あいつらに知らせるべきなのは判っていた。でもなんとなくイヤだった。自分のテリトリーの中にいる牧野を独り占めしていたかった。

社会人になった俺たちはみな悪戦苦闘していた。ジュニアの重圧。類もあきらも1年目からあちこちの支店をまわり修行中だ。そのうち海外へも行くだろう。関連会社への出向もあるかもしれない。そして司はNYで帝王学を学び、そのまま会社の中枢で大きなプロジェクトを動かしている。俺だって、次期家元という重い名前を背負いながら、自分の目指す茶道をつかもうとあがいている。

牧野の生き様はシンプルだ。食べるために働く。働くことは当たり前。自分の仕事に真剣に取り組み、それを喜びの場に変えていく。そんな牧野にみんな惹かれるんだ。

そして俺も。常に目が牧野を探している。耳が声を聞きたいと思っている。・・・一緒にいたいと思っている。

あれだけ激しかった女遊び。だんだんとしたいと思わなくなっていた。もちろん、忙しくて時間的な余裕がなくなってきたというのもあるが、頭のどこかに牧野がいる。夜の街に出てみても、目の前にいる女たちの思わせぶりな仕草や言葉が、うざったらしくて仕方ない。何を見ても、牧野の声や顔が浮かぶ。ああ、そうだよ。俺はどっぷり牧野にはまってしまったんだ。

司、お前ってすごいヤツだよ。あの牧野の良さに、すぐに気づくなんて。
なあ、司。なあ、類。俺が牧野を好きになってもいいか・・・?
牧野、お前を好きになっていいか・・・?

***

茶道の弟子にはいろいろある。いわゆる習い事としてきている人たち。趣味の一つとして楽しんでいる人たち。そして、それを職業としている人たちだ。牧野はこの最後のグループだ。習い事でもずっと続けていて上の免状をとっている人もいるから、様々な人がいろんなかたちで学んでいる。

牧野はどのグループの弟子たちとも接することがあったが、一部のものから目の敵にされることが多くなっていた。俺のそばにいることに対する妬みだ。牧野のような若い女が仕事にかこつけて、次期家元にすりより、つきまとっている。そんな噂が流れるようになっていた。

実際は俺が追いかけている。でも、見ている人は、そんなことは関係ない。ただ一緒に仕事をしているだけでも、気に食わないらしい。あれこれと言ってくることが増えた。

いわく。
「よろしければ、わたくしが代わりにお仕事させていただきますが」
「あのようなものをおそばに置くなんて…」
「うちの娘でお役に立てましたら…」
「やはり小さい時から学んでおかないと…」
などなど。

いくらでも反撃は可能だ。でも下手に言い返すと、それがそのまま牧野への攻撃に跳ね返っていく。いくらそばに置きたくても、危険だと思い、公の場では距離を置くことにした。もともと、俺が指導していたわけではないし、家元夫人のところだと安全だと思ったからだ。もちろん、屋敷内ではいつもどおりに接しているが、目に見えて牧野の元気がなくなってしまった。

ある日、牧野が珍しく改まって、話があると言ってきた。俺は敢えて、人目のある庭に誘い、茶花を摘むのを手伝わせつつ、話を聞くことにした。

「西門さん、しばらく、こちらへ伺うのを止めようかと思うんだけど」
「…なぜ?」
パチン、パチンと花ばさみの音を響かせつつ、切った花を牧野に渡した。
「あたしがここに来ると迷惑がかかると思うから」
「…どういう迷惑?」
「縁談が調わないって。それはあたしみたいなのがそばにいるせいだって…」
バチン!思わず太い茎を力を込めて切り落とした。
「誰がそんなこと言った」
はっと顔をあげて俺の顔を見て、後ずさる牧野。
「誰がそんなことをお前に言ったんだ!」

庭のあちこちから息をのむ気配。こちらを窺ってた面々が、牧野が下手を打って俺の機嫌を損ねたと思ったらしい。

「来い!」と怯える牧野を引きずるようにして、家元夫人のもとに連れて行った。そこには事務長の姿もあった。何事かと驚く二人に、牧野が言われていることを報告した。うつむいて部屋の隅に控えている牧野を視界にいれつつ、縁談とはどういうことなのかと、家元夫人に尋ねた。

おふくろはため息をついて、答えた。たしかに縁談が持ち込まれている、と。相手は旧知の書家の佐原流の娘で、年齢的にも家格的にもつり合いがとれているし、本人もしっかりした教養を身に着け、容姿の優れた、この上もない人だと。

少し前だったら、ろくでもない素行の悪い次期家元として、まだ早いと断ることもできたが、最近はふっつりと悪い遊びをやめ、評判があがってきているため、かえって断ることもできず、苦慮していること。流派内でも、この縁談を歓迎する声が高く、一弟子にすぎない牧野を邪魔者扱いする風潮がでてきたこと。

なんてことだ。
ただ、単に稽古に来る女たちの嫉妬だと思っていたのに、ことはそんな生易しいものではなく、西門内でもそんな動きになっていたなんて。隅に小さくなっている牧野は、ただ単に自分の仕事のためにここにきているに過ぎないのに…!

相談の結果、とりあえずは、しばらく牧野は西門へ来ないでおくことになった。牧野が悪いわけではなく、俺がはっきりしないせいだ…。そっと部屋を出て行った家元夫人たち。

「牧野」
うつむいたまま顔を上げない牧野に言った。
「悪い」
「西門さんが悪いわけじゃないよ。私が…」
「牧野!」
語気を強めた。
うつむいたまま顔を上げない牧野のそばに行き、顔を覗き込んだ。泣くまいと唇をかみしめている。そっと、胸に抱き寄せた。一瞬体を固くしたが、やさしく髪の毛を撫でると、静かな嗚咽が部屋に流れた…。

『お前が好きだよ』
声に出して言えたらいいのに。でもこの状況ではお前を傷つけるだけだ。ただ、今だけはこうしていよう。薄暗くなった部屋の中、この時だけは。




しっかり西門家になじんだつくしは嫉妬の的になります。それだけではなく、様々な思惑を持っている一派の邪魔になっていることがわかり、追い詰められてしまいます。
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